0.あいつ
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*SIDE:KYOUSUKE

 つまりあいつはそういう奴なんだと思う。
 そう無理矢理納得しようと心がけ始めたのは、つい最近のことだ。
 そう、ってどんなのなんだとは思わないでもないけど、言葉で言い表せないのだからしょうがない
 とにかくあいつはそういうやつ。あいつはああいうやつ。それで納得するしかないだろう。
 あいつはいつも大丈夫かと思うほど笑ってばかりいて、猫みたいに落ち着きはないけど人当たりもいい。
 かと思えば運動能力もなかなか秀でたもので、最近になって聞いたことだがあいつは頭もいいらしい。
 そして俺はというとまったくの真逆的存在だ。
 表情はそれほど動くことはないし、長年道場をやっている厳しい祖父が親代わりだったせいか、下手なことでは動じたりもしない。
 しかもそれらが吊り目であることや180を越える身長にプラスされて、何か人を寄せ付けない迫力があるらしい…と俺は判断している。
 少なくともあいつと違って俺の周りには決まった友人しか寄らない。
 頭も運動もそこそこ、顔はまぁ普通なんだと思うんだが…。
 そんな俺がなんであいつと一緒にいるんだ? と聞かれたとしても、俺には答えられない。だって何時の間にかいたんだ。そこに。 
 お互いに気がつけばそばにいたというだけで、餌を与えたわけでも、何か恐喝したわけでもない。
 というか俺のほうが知りたい。
 なんのつながりも保障も持たないそんな曖昧な境界線にたってる。
 一度だけ、聞いてみたことはある。

「なぁ。なんでお前ここにいんの」
「はぁ? お前がいるからに決まってんじゃん」
「……意味わかんね」

 本当に意味がわからない。やつの思考回路はいったいどうなっているんだ…凡人には理解不能だ。
 ただそれでも疎ましいとは思わなかった。
 人付き合いが下手な俺に友達と呼べる人間は少ない。だからといって、あいつのことをそう呼べると思っているわけじゃない。
 それでも人の中で成長してきたあいつはよく空気を読んでくれて、人付き合いが下手な俺にも付き合いやすいやつだった。
 …なんていうんだろうか。
 居心地のいいやつなんだ。
 何かを要求してくるわけでもなく、否定されるのでもなく、ただそこにいて認めてくれるから。
 何故そこにいてくれるのかわからなくても、別にいいと思えるようになった。

 あいつはいつも笑っていて。
 …だからだろうか?
 なんとなく俺も以前より、笑う回数が多くなった気がした。




*SIDE:SENRI

 第一印象っていえば、なんて目つきの悪いやつだと思った。
 こう、なんてーの? 目つきギラギラさせて無表情で見つめてくるのよ、あいつ。それがすげぇ迫力だのなんだのって。
 なんか怒ってんのかと聞けば、「なんで?」とそれこそ(無表情だけど)不思議そうに聞いてくんだよ。
 しかもそれは何か意味とか目的があるわけじゃなくて、ただぼーっとしてるだけだったらしい。
 そのギャップが面白かったんだよな、思えば。
 それに話してみたら思ったよりもずっといい奴で…ハマっちまったんだよな。
 俺は自慢じゃないけど人当たりはいい方なんだと思う。だから、学校では必ずといって誰かが回りにいるけど…正直面白くない。
 くだらない噂話に踊らされてみたり、媚びへつらう声ややけに自分を高く見せようとする人種。
 勿論そればっかじゃないけどさ。疲れちまったのかな。
 そりゃ一人でいるのは寂しい。だからにぎやかなんだって好き。
 けど…駄目なんだよ。
 一度でも居心地のいい場所を知ってしまったら、そこにいたいと思うようになった。
 目つき悪いし、無愛想だし、おかげでちょっと学校では浮いてるみたいだけど性根はいい奴なんだよ。不器用なだけで。
 これはあいつと話すようになってからわかったことなんだけどさ。
 だから俺は今日もあいつのそばで、それこそくだらない話して笑ってんだ。
 また明日もこうであればいいなって思ってる。
 あいつはなんで俺が自分のそばにいるのか分らないらしいけど、そんなん理屈じゃないよな?
 実際前答えたこともあったけど、やっぱりあいつはわかってないようで訝しげに顔を歪めてた。
 その表情もなんか似合わなくて笑えて、うっかり声に出てしまったら今度は拗ねてたっけな。
 あいつはどうも自分のことをわかってない。
 その顔で、そんな表情してみろ。こっそりいるお前のファンクラブの連中が泣くぞ。
 …って言ってもあいつはそんなものの存在すら知らないだろうから、嘘つけと怒るだろうけど。
 あー。なんだかな。考えれば考えるだけあいつは面白い。
 どっしりと構えているようでどこか無頓着で。そつないようでどこかぼけっとしてる。
 面白いよなぁ。
 多分今の俺の楽しみっていえば、あいつと過ごす時間なんだろうなって思う。







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