0.滅びの物語
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ある日、天の神様は決めました。
この淀んだ世界に綺麗なものを作ろうと。
人間たちが我が物顔で壊してきたこの星に、ひとつだけまた与えようと決めたのです。
そしてそれは、小さな島でした。
自然が溢れ、人間が一人もいない島。そこを動物の住みかにしました。
その島には沢山の綺麗な鳥が住んでいました。
その中に、特に仲のいい4羽の鳥がいました。
4羽の鳥はまだ羽ばたけない頃から一緒にいた、長い長い付き合いでした。
空の鳥は、とても明るく元気で、歌声がかっこよく、他の鳥の人気者でした。
海の鳥も同じく元気な鳥でしたが、どこか脆さと強さを持ち合わせた鳥でした。
夕暮れの鳥は危なっかしくて、だけどそばにいるだけで穏やかな気分にさせてくれる鳥でした。
夜の鳥はこの3羽がとにかく大好きで、あまり言葉には出せませんでしたが、
いつまでも一緒にいたいとおもっていました。
空の鳥が言いました。
「この島のもっとずっと、向こうの島へいってくるよ」
他の鳥は驚きました。
4羽の中でも外の島へ長らく出たことの無い空の鳥だけでは、と不安におもったのです。
ですが、空の鳥ならば頑張れると信じることにしました。
その後海の鳥も同じことを言い、空の鳥と同じように、他の3羽は信じました。
いつかまた会おうと、帰ってきたらまた遊ぼうと約束を交わし、またそれを信じました。
やがて空の鳥と海の鳥が住みなれた島を離れるとき、泣かないでいたかったのです。
同じ島に残った夕暮れの鳥と夜の鳥は、しかし同じ森へ辿り着くことはせず、
それぞれの森で生きることを選びました。
それもまた始めてのことで、一羽一羽が別々の場所で生きることに決めました。
ただひたすら、4羽はお互いを信じつづけていました。
それから数ヶ月後………。
島では、島の誰も見た事の無いような兵器が、島を荒らしていました。
広がる爆撃音、倒れる木々、赤く濁った川。
死んでゆく生物。
それは人間の仕業でした。
人間は自分たちの住処を作るために、誰もいないこの島を奪おうとしたのです。
そして、この島に住む動物たちを虐殺しました。
夜の鳥は夜以外、島の上を飛んですごすのが日課でした。だから、その事実に気付きませんでした。
夜になり、夜の鳥が見たのは非情すぎる惨状。
共に生きてきた仲間は倒れ、生きているものももうすぐ命が消えるような状態でした。
夜の鳥は嘆きました。どうして助けられなかったのか、と。
非力な自分、気付けなかった自分にとにかく憤りが込みあげました。
ふらふらと夜の鳥が島をさまよっていると、川岸のほうから声が聞こえました。
夕暮れの鳥の声でした。
夜の鳥は翼をざっと広げ、風を切る勢いでその場所へ向かいました。
夕暮れの鳥は倒れ、翼が無くなっていました。
震えながら近づくと、夕暮れの鳥は弱弱しく息を接ぎ、夜の鳥に向かって微笑みました。
――無事で、よかった。
いつもの優しい夕暮れの鳥でした。
最後の、最後まで。
夕暮れの鳥のぬくもりが消えたのは、それからすぐのことでした。
夕暮れの鳥の訃報を聞いて、空の鳥と海の鳥が島に帰ってきたのは、一日経った後でした。
空の鳥と海の鳥は、島の様子を見て愕然としました。
自分たちが愛したあの島は見る影もなく、生きているものは夜の鳥だけ。
一体何があったのかと問い詰めながらも、涙は決して止まりませんでした。
事態に気付けなかった夜の鳥はそれに答える事が出来ず、ただ夕暮れの鳥の亡骸を抱いて、嗚咽もなく泣くだけでした。
3羽の鳥はいなくなった1羽の鳥を想って、ただただ悲しみに沈んでいました。
それから、空の鳥と海の鳥は、島にいた人間たちを滅ぼしました。
どれだけ銃弾を浴びても、どれだけ刃で切り裂かれても、決して止まらず。
憎悪にかられるまま、人間たちを殺し尽くしました。
夜の鳥は、やめさせようと思いましたが、それもできませんでした。
憎いと思う気持ちは、悲しいと思う気持ちは同じだったから。
だけど、伝えたかったのです。
命が失われるのは、本当に怖いことなのだと。
悲しすぎることなのだと。
しかし結局戦いが終わるまで、夜の鳥は何もできず………
そしてまた、大切な友達を失いました。
戦いが終わり、島には静寂が訪れました。
枯れた草木もやがてまた芽吹き出し、綺麗な島に戻ろうとしていました。
ただひとつ、違うのは………
この島に生きるものが、もはや夜の鳥以外誰もいなくなったということでした。
夜の鳥は、独りになりました。
悲しみ。苦しみ。嘆き。痛み。後悔。孤独。
すべてが、夜の鳥をどんどんと弱らせていきました。
それを癒すものなく………
それを慰めるものなく………
ただ傷は広がり。
夜の鳥は、ついにその命を天に捧げ。
独りのまま誰にも悲しんでもらうこともなく死んでいきました。
〜〜ルーン・カーヴェル著、『4羽の鳥の話』〜〜
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