1.再生 @
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第一印象は綺麗だと思った。
空気が淀んでなくて、動物が沢山いて。川の水は澄みきっていてそのまま飲めそうなくらいで。
森が大きく広がっているのをみると、まるで島を守っているようだった。
ここだけが自分の知る世界と隔離された、別世界のようで。
今の世の中でもこんな場所があるんだと思った。
実際に記録として残っていたデータを見てみても、実感はわかなかった。だからこうやって発掘に参加したのだ。
―――まぁ、建前だけど。
ふと、歩いていた自分の頭に影が消えたことに気が付いた。森を抜けたのか。
顔を上げ、無意識に吐息が漏れる。
見上げた空は嫌味なほど鮮やかな蒼のまま、夕都の目に飛び込んできた。
………晴れてる。
今日で、この島へ来て3日になる。
「えー!? いやですよ!! なんで俺が!」
俺は目の前で今しがた残酷な一言を容赦なく言い放った人物に、涙声で訴えた。
しかし、相手はやはり二の句も容赦が無かった。
「決定は決定だ。文句があるなら、直に言いにいくんだな。俺は知らん」
「そっ、そんなことしたら、俺今度こそここ追い出されそうじゃないですかっ!?」
「されそう、じゃなくて術中八苦そうだろうな」
「せ、せんせい………」
「観念するんだな」
もうだめだ。この人がこんな言い方をしたら、本当に観念するしかない。
ほんの数日前の自分の行動を今更ながら後悔した。
俺、要 夕都(かなめ
ゆうと)は研究所で働いている。俺の在籍するこの研究所は、有体に言えば古い、大々的にとりあげることのできない機密的な遺跡を中心として調べること
が多い。そして調べ知れたことは誰と
はいえなくとも、易々と口外できるようなネタでもない。もちろんそこに在籍するものはそういうことを含め厳重な検査も必要とされる。そして、技量も。
そういうこともあってか、ここではろくに研究所から出ることは許されていない。もっとも、調査が忙しくてもし許可がおりたとしても、でかけられなかっ
たことのほうが多かったんだけど。第一ここにいる人間は、外のことよりもこの仕事が好きだという所謂変わり者が多いようで、不満を持つことじたい少ないら
しい。
あの日は、久しぶりの仕事の休みだった。たまってた仕事がようやく一段落ついて。それで思わず、「あそびにいこーぜっ」という同僚の水城の誘
いに飛びついてしまったのだ。
それが間違いだった。
(そうだよ…! あの時、水城なんかについてかなきゃよかったんだ! そりゃ俺も久々の休みであの時はどうかしてたとは思うけどさっ。でも誰が
思う!? まさか
連れてかれるのがやつが付き合ってる彼女の家だなんてさ! 普通連れてかねぇだろ!?)
心の中で思いっきり毒づく。
(大体彼女だってかなりびっくりしてたじゃねぇか! そりゃ、変
だと思ってもついてった俺も俺だけど……で、しかも酒でいつのまにか寝ちまった俺を放置して帰るだなんて、ありえねぇだろぉ!?)
目が覚めて最初に聞いたのは、同じく寝起きらしい水城の彼女の悲鳴だった。
やれ変質者だの泥棒だの騒がれたあと、昨夜のことを思い出してもらうまでにどれほど苦労したことか。
そしてなぜかそれが上司にばれて、俺はこっぴどく上から叱られた。
そしてこの処罰だ。1ヶ月間無人島の発掘・調査を命じられた。
(だいたいこんなのありえねぇ、なんだよ無人島って。しかも1ヶ月って。サバイバル学習なんてやったことないっつうの)
それにだ。それよりなにより俺が言いたいのは………
「あいつだけなんでばれてねぇんだよ!? なっとくいかーーーーんっ」
目の前にいない友へ向かい、俺は大声で吼えた。
と、今更回想したところで、既に来てしまった。無人島。
「あぁもう……なんか出そうで怖ぇ」
ひとりでいると綺麗なこの島も、なんだか不気味に見えて心細い。
一応班で行動していたはずなのに、夕都は今ひとりだった。食事時だったので、川の水を汲みに行ったのだ。
そこで、道に迷ってしまった。
(だってどこもかしこも同じ景色じゃないかよっ)
わめいたところで、どうしようもない。実質迷ってしまっているのだから。
それにすぐ済むだろうと、誰にも言わず出てきてしまった。それがまずい。
気のいい先輩たちが気付いてくれるまでに、どれだけ時間がかかるだろう。
(ここで待ってたほうがいいのかな…)
迷ったときは動かないほうがいいときいたことがある。でも、実際どうすべきか、わからない。
夕都が進むか否か迷っていると、後ろからがさ、と葉っぱをよける音がした。
びくりとして、思わず後ろを向く。人影だ。
(た、たすかったっ?)
ここは無人島だ。だから、班の先輩の誰かだろう。
夕都はそう思い、意気揚揚とその人影に向かっていった。
「先輩っ」
夕都が話し掛けた人物は、確かに人だった。
だけど、違う。先輩じゃない。
だって先輩は、もっと研究者っぽくなよなよしてて、こんなたくましい体なんかしてなかったし、何より露出してなかったんだよ。服も。
しかも背中に羽のオプションなんてなかったし……って、羽!?
ぎょっとして見上げると、端麗な顔の男が、少し驚いたというようにこちらを見ていた。
夕都は、引きつった顔で声をあげた。
「出たーーーーーーっ!!!!!!」
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