2.再生 A

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「出たーーーーーーっ!!!!!!」
 夕都は叫び、走りだそうとした。
 が、いきなり目の前の羽の生えた美丈夫から腕を引っ張られ、つんのめってしまう。そしてそのまま腕の中へ。
 って男に抱き締められても嬉しくないっての!
 夕都は全力でもがいた。しかしそれにもびくともしないので、また悲鳴をあげようとしたが、察したのか口を手でふさがれた。
「むぐっ」
 何この状況、俺どうなっちゃうわけ?
「むむ゙ーッ」
 声は出ないが、必死の抵抗。
 ぐぅぇ…。お兄さん、鼻っ、鼻もしめちゃってるのっ。し、死ヌ。
「なんだ?」
 男が少し首をかしげながら話しかけてくる。そうでもしないと高さが合わないんだろう。ムカつく!
 てかちょっと待て、聞くならこの腕どけやがれっ。
「――っ…」
 悲しいかな、俺はそのまま男の腕の中で気絶した。









 同時刻、同じく島内。
 水城はぐつぐつと音を立てている鍋を見つめ、ひたすらかきまわしていた。
 先日のそれを上にはバレなかったものの、ちょうど暇をつぶしていた水城は無人島調査に駆り出されていた。
 結果として夕都と違うのは減給がなかったことだけだ。夕都に言ったらまた怒りそうだなぁ、と思うので言わないけど。
 何より今は鍋だ、鍋。
 額には汗がにじみ、表情も険しくなる。水城は料理経験が皆無だった。
「よー、坊主。飯は出来たか…っと、なんだそりゃ!!」
 後ろから声をかけてきた先輩A(名前を覚えてないので水城は勝手にアルファベットを当てている)が、鍋を指差しながら悲鳴を上げる。
「食いモン…か…?」
 粥? 粥なのか? いや煮しめ…、分らないがどうすればそんなに黒いものになるんだ?
 先輩Aは顔を引きつらせながら必死に考える。と、それを聞いた水城が不思議そうに返事をする。
「え? 先輩、それカレーですよ?」
「嘘ッ?! ありえねぇ!! 中身黒いじゃないかよ! 匂いカレーじゃねぇよ!」
「本当ですって。ちゃんと味見もしましたし」
「げっ、お前これ食ったのかよ」
「悪くないですよ。先輩もどうぞ」
 水城が満面の笑顔で鍋の中身を皿に移し、差し出す。背景が何やらきらきらとしているのは…きっと気のせいだ。
 先輩Aはそれに更に顔を引きつらせながら、首を横に振る。
「俺ぁ遠慮する。ちょっと、今、胃がなっ、はは。――あ、お前食えよ新羅」
 先輩Aに呼ばれ、もう一人調理をしていた先輩がこちらへやってくる。
「うん? 何をだよ上田……、ってこれ」
 思わず絶句する新羅先輩。
 どうでもいいが先輩Aの苗字は上田というらしい。
「カレーですよ。やだな、先輩まで。美味しいですよどうですか味見」 
「へぇえ、そうだったのかぁ。俺は知らないうちにカレーというものの見解を間違えていたようだね。――遠慮するよ」
「もったいない。どうせ後で食べるのに」
「あ、俺の分は最小限でいいからな水城」
 こっそりと耳打ちするAこと上田先輩。
 水城はそれをやはり不思議そうに聞き流し、次の料理を作るべく即興の調理場に向かった。
 ちょうど戻るところなのか、新羅先輩も一緒だ。
「ねぇ先輩」
「ん?」
「要のやつ、何処行ったんだと思います?」
「ん〜…そういえば遅いねぇ。一人で行ったからトイレかと思ったんだけど」
「長すぎですって」
「あはは、トイレの時間なんて気にしちゃだめだよー」
「…。それよりもっと、道に迷ったりとか穴にはまったりとか、海で溺れたりとかのほうじゃないですか?」
「要くんならありそうだなぁ。まぁでも、日没には戻るでしょう、多分」
「それならいんですけどー…」
「水城君、心配性だって言われないかい?」
「言われません」
 ふむ、と鍋を新しく取り出したらしい先輩が、顎に手をあてて考える仕草をする。
「ちなみにさっきまで作ろうとしてたの、本当は何かな?」
「え? だからそれ、カレーですよ」
「……。そっか」
 そう新羅先輩が呟いたのと、こっそりとカレーもどきを排除しようとしていた上田先輩が火傷をしたのは、ほぼ同時だった。










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